就業規則の条文実例と解説

就業規則で防ぐトラブル例(総則−適用範囲)

【トラブル例】
60歳を超えて嘱託として雇用された従業員が、退職時に退職金を請求してきた。
長期間雇用したパートタイマーが退職金を請求してきた。


【一般的雛形の文例】
(適用範囲)
第○条 この就業規則は当社の社員に適用する。


【参考文例】
(この規則が適用される人は)
第○条 この規則に定められた内容は、雇用期間の定めのない労働契約により会社の業務に継続して従事する正社員に適用されます。パートタイマー・アルバイト・嘱託など就業形態が特殊な勤務に従事する人、または雇用期間の定めのない労働契約であってもその名称にかかわらず正社員と異なる形態で勤務している人については、原則としてこの規則を適用せず、雇用契約書またはその人に適用する特別な規則によって本規則と異なる定めをした場合はその定めによるものとします。


【解説】
例えば大興設備開発事件(大阪高裁平成9年10月30日判決)では、「高齢者やパートタイムの従業員に適用される就業規則が別に定められていたものでもなく、本件就業規則の規定の内容が従業員全般に及ぶものとなっていて、高齢者には適用しないという定めはないのであるから、本件就業規則は高齢者であるXにも適用されると解するのが相当である。」といった判断がされています。適用を除外すべき人についてはきちんと検討したうえで就業規則上に明確に記載しておく必要があります。
また会社によっては「社員といえば正社員のことなんだからこれでいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、労働基準法は「正社員」「パート」「アルバイト」といった区別をしておらず、これらはあくまでも会社の定義によるものですから、これもきちんと定義を規定しておくことは重要です。

就業規則で防ぐトラブル例(休暇−特別休暇)

【トラブル例】
1年半も前に結婚した従業員が、「結婚休暇を取っていないから」と今になって請求してきた。
虚偽の理由ではないかと思われる特別休暇の申請を行う従業員がいるが、証拠もなく対抗できない など


【一般的雛形の文例】
(特別休暇)
第○条 特別休暇を下記の通り与える。
1.本人の結婚 〇日
2.配偶者の出産 〇日
3.忌引の場合
  配偶者・子女の死亡のとき 〇日
  祖父母(養祖父母を含む)兄弟姉妹が死亡したとき 〇日
  配偶者の父母が死亡したとき 〇日
  その他、会社が必要と認めたとき 必要と認めた日数
(2)前項の休暇を取得しようとする者は事前に申し出なければならない


【参考文例】
(特別休暇を取得できる場合と手続きについて)
第○ 従業員が次の各号の一つに該当するときは、その人の申し出により、次の日数の特別休暇を取ることができます。なお特別休暇は、特に定めのない限り当該事由の生じた日から引き続き取得することを原則としますが、本人の結婚については本人の希望も勘案し事由の発生日から6ヶ月以内の取得を認める場合があります。
1.本人の結婚(結婚式の日または婚姻届を提出した日)     〇日
2.配偶者の出産       〇日
   〜〜〜〜〜〜〜〜中略〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(2) 前項各号の休暇日数について、特別休暇日と同時に各自の休日が重複するときは各自の休日を含めての日数とし、別途休暇日数の加算は行いません。
(3) 第1項各号の休暇について、会社が必要と認めたときは、休暇を取得しようとする事由を証明する書類を提出しなければなりません。
(4) 従業員が、本条に定める休暇を受けようとするときは、会社の業務に支障をきたさないように1項1号については5日前までに所定の手続きにより上司に申し出て、その承認を得なければなりません。1項2号以下の事由の場合であっても事前の申し出を原則とし、事後の申出の場合、やむを得ない理由のある場合を除き特別休暇との振替を認めないことがあります。
(5) 前項に定める手続きを怠り、または必要な証明書類の提出を拒否したときは、当該休暇を認めず、またはは無給とすることがあります。 


【解説】
特別休暇は、就業規則の相対的必要記載事項であり、必ずしも設けなくても良い制度です。従業員の福利厚生等を目的として特別休暇を設ける場合には、「よかれと思って作った制度がトラブルの元になる」といったことがないよう、起こりそうな事態を想定してきちんと規定しておきたいものです。
労働基準法を越える休暇ですから、事前の申請に日数の制限を設けたり(忌引き等ではなかなか事前の申請が難しい場合もありますが)、取得事由を明らかにする書類を提出させるといったことも規定しておくことができます。
これらは例えばなにも「特別休暇の度に証明を提出させる」ことが目的ではなく、このように規定しておくことによって、虚偽の理由で特別休暇を申請しようとするのを「未然に防ぐ」ことが目的であるのは当然です。
その他、「特別休暇が本来の休日と重なった場合にどう取り扱うか」といったこともトラブルの元になりやすく、きちんと規定しておく必要があります。
また会社によっては「社員といえば正社員のことなんだからこれでいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、労働基準法は「正社員」「パート」「アルバイト」といった区別をしておらず、これらはあくまでも会社の定義によるものですから、これもきちんと定義を規定しておくことは重要です。

就業規則で防ぐトラブル例(採用・異動−休職)

【トラブル例】
うつ病によって、短期間の欠勤を繰り返す従業員に対して休職を命じたところ、不当だとして監督署に訴え出られた


【一般的雛形の文例】
(休   職)
第○条 従業員が次の各号のひとつに該当した場合は休職とする。
1.業務外の傷病による欠勤が1ヶ月以上継続するに及んだとき
2.会社の命令により出向したとき
   〜〜〜〜〜〜〜〜以下略〜〜〜〜〜〜〜〜〜


【参考文例】
(休   職)
従業員が次の各号のひとつに該当した場合は休職とします。
1.業務外の傷病による欠勤が、継続して、あるいは断続して日常業務に支障をきたす程度(おおむね1ヶ月間程度)以上に続くと認められるとき。
2.会社の命令により出向したとき
3.精神疾患等により労務の提供が不完全であると会社が認めたとき
   〜〜〜〜〜〜〜〜以下略〜〜〜〜〜〜〜〜〜


【解説】
休職とは、私傷病その他の事由によって労務の提供ができない、または不完全な場合に従業員の身分を保持したまま一定期間労働を免除(または禁止)する制度です(相対的必要記載事項)
近年、うつ病等によって、会社に来たはいいものの一日中ボーっと過ごしていたり、断続的な欠勤を繰り返す事例が良く見られます。モデル就業規則等の場合、こうしたケースを念頭に置いておらず、休職命令を発することができないといったトラブルが見受けられるため、断続的な欠勤や不完全な労務提供等についても休職命令を発する旨明確に記載しておく必要があります。またここには書かれていませんが休職の期間についてももモデル就業規則では会社の実態に照らして長すぎる例が良く見られるため確認が必要です。
なお休職期間中は労務の提供が行われないわけですから、賃金の支払いや勤続年数の加算は行わないのが通常です。もちろん支払ってもかまわないのですが、(経営者の独立前の勤務先など大企業の雛形を引用して作成した場合によく見られます)私傷病の場合ですと傷病手当金と相殺されてしまい、無駄金になってしまう可能性もあることから、せっかく支払うのであれば「復帰祝い金」のような形の方がご本人の復帰の意欲をそがないという点でも望ましいケースが多いでしょう)。

就業規則で防ぐトラブル例(退職−引継ぎ)

【トラブル例】
ある従業員が「辞めます」との電話だけで突然出勤してこなくなった。


【一般的雛形の文例】
(自己都合退職)
第○条 自己の都合により退職しようとするものは、○日前までに退職届を提出しなければならない。


【参考文例】
(退職するときの手続きと業務引継ぎについて)
第○条 従業員が自分の都合によって退職しようとするときは直属の上司を経由して○○宛に原則として○日前までに退職届を提出してください。
(2) 退職届を提出した人であっても、会社の承認があるまでは従前の業務に服さなければなりません。
(3) 従業員が、退職届を提出しまたは解雇(懲戒解雇による即日解雇を除く)されたときは、退職日に遡って2週間以上は現実に勤務し、会社が指定した人に退職日までに完全に業務の引継ぎを行い、上司の承認を得てください。ただし会社が不要と認めたときはこの限りではありません。
(4) 本条に定める手続きを怠った場合、退職金の全部または一部を支給せず、または懲戒の対象とすることがあります。


【解説】
退職時は最もトラブルの起きやすいときであり、就業規則の規定も慎重にしたいものです。
残念ながら最近では「立つ鳥あとをにごさず、は常識ではないか」といっても通用しない従業員の方もいるようです。こうした不義理のケースはもちろん従業員の責任ですが、それに対してなにも対抗できないのであればこれは会社の準備不足ということになるでしょう。退職届けのことだけでなく、引継ぎ等やめる従業員の方が行うべき手続きについてきちんと明記しておくとともに、それらが行われなかった場合のペナルティーについても記載しておきましょう(いうまでもないことですが、これもペナルティーそのものが目的なのではなく、トラブルを「未然に防ぐ」ことを目的としている点に注意が必要です)。

規定のしかたまとめ

上記の例はごく一部の代表的な例で、実際にはこうした検討をそれぞれの条文について加えていくことになります。イメージがわいたでしょうか。

さて、次のページでは、もっと踏み込んで「従業員ハンドブック」のような形で「従業員に特に意識してもらいたい事項」や「制度の記載意図の説明」など、積極的な労務管理上の効果を狙った文章例を見ていきます。
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