条文および構成の解説

章立てとそれぞれの考え方

前ページでご紹介したモデル就業規則の構成をもとに、それぞれの章立てをもう少し詳細に見ていくことにします。
モデル就業規則構成例

1 総則

総則には一般的に、就業規則の目的や、適用範囲、従業員や社員の定義といった内容が記載されます。これらは、絶対的必要記載事項ではないための会社がその内容を比較的自由に規定することができます。例えば「はじめに」などと題して経営者の思いのたけを存分に書いてもよいですし、経営理念や経営方針、社是・社訓といったことを書くこともできます。その他就業規則全体に関わってくる規定(会社の組織体制や、勤続年数等の計算方法など)はこの総則に記載するのが通常です。
 なかでも、適用範囲の定めについては「この就業規則がだれに適用されるのか、という非常に重要な条文となります。会社の実情に照らしてきちんと実態に合い、読み手に複数の解釈の余地を与えることのない、明快な内容を心がけましょう。

2 採用・異動

「採用・異動」の章では、一般的に採用や異動、また試用期間や休職等に関する事項を定めています。
採用に関しては、ほとんどのモデル就業規則に記載されており、採用基準や応募時の必要書類といった条文が書かれているのが一般的ですが、そもそも採用の手順や条件等については、従業員となる前(まだ労働契約が交わされていない)の方に対する内容であり、必ずしも就業規則に記載する必要はないともいえます(任意的記載事項)
 試用期間については、この期間中に能力や、従業員としての適正があるかどうかをチェックし、本採用するかどうかを決定する非常に重要な条文になります。特に「採用しない」場合においては解雇という扱いになり、トラブルが起こりやすいことから、これを未然に防ぐ意味でもどのような場合に本採用しないのか、誤解のないよう明確に定めておく必要があります。
 また、休職については、「採用・異動」の章でなく、休職・復職についてそれだけで章立てすることも多い大変重要な項目です。休職は私傷病(つまり本人都合の怪我や病気)によって会社を休まざるを得ない場合に、解雇を猶予する制度で、相対的必要記載事項とされています(つまり必ずしも設けなくとも良い)。会社と従業員は「労務を提供する(働く)」ことを条件に雇用契約を結ぶわけですから、私傷病によって働くことができない場合はいわば「契約違反」という状態です。ただし、これを休職という制度によって解雇を猶予することにより、従業員が治療等に専念でき、安心して働ける職場環境の構築や、帰属意識の向上などを目的として設けるものです。こちらも大変トラブルになりやすい項目のため、その期間や賃金の有無(無給でかまいません)、復職の取り扱いなど、慎重に決定することが必要です。なおなくても良い制度ではありますが、規定のしかたによって復帰できない場合に解雇を経ずに自動退職にできるなど、会社のリスクヘッジの面からもあってよい制度だといえるでしょう。
異動については、相対的必要記載事項となっていますが、配置転換や転勤、出向などを命令する根拠となりますので必ず規定しておきましょう。

3 服務規律

「服務規律」の章は、一般的に職場の規律を保つ為の勤務態度や、遵守事項について定めます。就業規則をリスクヘッジのための経営ツールとして活用するために大切な規定であり、労働時間や休日、賃金といった基本的な労働条件と並んで非常に重要な、就業規則の屋台骨のひとつといえます(相対的必要記載事項)
従業員は、雇用契約を結ぶことによって会社への労務提供義務を負いますが、それだけではなく併せて「職務専念義務(就業時間中は職務に集中し他の活動は行わないこと)」「企業秩序遵守義務(就業時間中は施設の内外を問わず会社の正当な利益を侵害してはならないこと)」「使用者の施設管理権に服する義務(企業の施設内では使用者の定める施設管理に関する規則に従うこと)」を負うとされています。
 服務規律の章には、これらの義務を従業員に理解しやすいよう、具体的な形で記載します。従業員が守るべき事項は、会社の業種・業態によってもかなり異なるはずですから、モデル規定をそのまま引用するのではなく自社の過去のトラブル事例や、会社の実態に合わせて丁寧に作成したいものです。これらの服務規律は、仮に違反があった場合の懲戒の根拠にもなるものですので、セクシュアルハラスメントの禁止や、個人情報の取り扱い、PC等の情報機器の取り扱いなどについてもきちんと記載しておきましょう。

4 労働時間・休憩・休日

「労働時間・休憩・休日」の章では、一般的に、所定労働時間、休憩時間、休日や所定外労働、深夜労働等に関する事項を定めます。就業規則の絶対的必要記載事項であることから、これを省略することはできません。労働基準法に照らして違反のない範囲で、会社の実態にきちんと合うように作成することが必要です。

5 休暇等

「休暇等」の章では、年次有給休暇や特別休暇、また母性保護のための休暇等を定めます。
ちなみに「休日」という用語と「休暇」という用語は混同しやすいものですが、「休日」は労働の義務のない日を指し、「休暇」は本来は労働義務があるがそれを免除される日を指すとされています。
年次有給休暇については絶対的必要記載事項であり、労働基準法上の規定もあることから、これに違反することのないように記載します。日数そのものについて労働基準法どおりでよいという場合であっても、モデル就業規則の規定では取得の際の手続きなどについて明確でない場合が多いため、トラブルになることのないよう、申請や申し出の方法などについて記載しておきましょう。
 また、特別休暇については、相対的必要記載事項であり、前ページにも記載したとおり労務管理上のリスクとメリットを充分に検討した上で、その日数や取得理由、申請の方法などについて分かりやすい形で規定することが重要です。

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